ノンアルボイス|Bar Cocktail Book Shinjuku岡村 朗の場合
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- 6月6日
- 読了時間: 5分
更新日:6月11日
ノンアルコールが盛り上がっている気がする、そんな気がするのだけど、実際どうなの?飲食の現場でノンアルコールを扱っている人に、ノンアルコールとの出会いから現在地点、将来に向けた課題を伺う企画『ノンアルボイス』。
今回は飲食店激戦区の新宿で14年間営業するBar Cocktail Book Shinjuku/バーカクテルブック新宿のオーナーバーテンダー岡村朗さんにお話をうかがいました。
岡村さんのこれまで

岡村さんと飲食の邂逅は非常にユニークなものでした。
幼少期に忍者に憧れて始めた体操は、岡村さんの人生の指針となっており、体育の先生になろうと大学進学を志していました。
しかし、大学受験も目の前にさしせまった高校三年生の頃、家庭の事情により就職に切り替えます。
高校の先生の「岡村はホテルマンが似合いそうだな」という何気ない一言でホテルマンへの道を考えるようになります。
そんなときに開いた就職情報誌、載っていたのは京王プラザホテルのバーテンダーでした。当時バーテンダーと言えば、ドラマ『恋はあせらず』の織田裕二のイメージ。早速気分が乗ってきます。
テレアポなんて知らない高校生は、就職情報誌片手に京王プラザホテルへ。運良くバーテンダーが出勤していたこともあり、高校3年生にして京王プラザホテルのバーデビューを果たします(もちろんノンアルコールで)。
補足ですが、当時の京王プラザホテルは毎年のように日本一のバーテンダーを輩出する超名門でした。
初めて受ける接客、初めて飲む味わい、初めて感じる体験。
岡村さんのバーテンダーへの気持ちは決定的なものになります。
卒業後、京王プラザホテルへ就職を果たし、無事メインバーに配属となります。しかし、憧れの世界に身をおくというのは、楽しいことばかりではないのが世の常。
先輩からの叱咤、終業後の特訓、気がつけばグラス拭きをして3年が経ちました。
「本当に仕事のできない新入社員で、毎日怒られてばかりで心が折れかけました(笑)」
しかし努力だけは欠かさずカクテル博士と呼ばれるほどにカクテルの本を読み込み、カクテルづくりも少しずつ力をつけていきます。そうして、21歳の頃ついに全国大会出場をかけた社内予選に通過、26歳で初の日本一に輝きます。
ここから岡村さんの快進撃が始まるかと思いきや、周りからの称賛にメディア取材におだてられ天狗になってしまいます。
「天狗だったときも練習だけは人一倍やっていました。練習すれば技術はつく、技術がつくと自信は膨れ上がる。そうして、謙虚な気持ちも周りへの感謝も忘れた天狗を生み出してしまいました。」
傲慢な姿勢は伝わってしまうもので天狗になっていた4年間、毎年全国大会に出場するも優勝には手が届きません。
最も身近な応援者であり同業の奥さまにも「あなたに足りないのは人間力。」と看破されます。
高校卒業以来バーテンダーとして走り続けてきて、気がつけば止まって周りを見る余裕を失っていた岡村さんの転機は、大会直前に体調不良により入院した事でした。
病室で、そもそも大会に出場できるのは、運営の方々、競い合うライバル、サポートしてくれる仲間、そして何より応援して下さるお客様がいればこそ。
自分がこれまで多くの大切な事や持つべき感謝の気持ちを忘れてしまっていたことに気が付きます。
仕事に復帰すると、上司から「初心、謙虚、自信。忘れずに持っていけ」というメモが。
「それまでは、自信が前に出すぎていたと初めて整理がつきました。今では感謝、初心、謙虚、自信をモットーにしています。」
自身を見つめなおすことができ、そこから3年連続大会で優勝を飾ります。
しかし、ホテルという職場柄、徐々に現場からマネジメント職へ変わっていきます。生涯現役でカウンターに立ちたいという思いの強かった岡村さんは独立に向けて動き出します。
先に独立を果たしていた奥さんの支えもあり、2011年に独立を果たします。
「独立最初の1年は『やりきる』という覚悟で無遅刻無欠勤で働き続けました。」
ハードワークのおかげもあって、冒頭に述べたように飲食店激戦区の新宿で14年間繁盛店としてやり抜いています。
岡村さんとノンアルコール

では、岡村さんとノンアルコールの出会いは何だったのでしょうか?
もちろん岡村さんとバーとの出会いは、就職情報誌片手に京王プラザホテル飲ませてもらったノンアルコールカクテルであり、そのままノンアルコールとの出会いであったとも言えます。
しかしホテルでは長らくノンアルコールカクテルに注力するタイミングはなかったと語ります。
契機になったのは、飲酒運転の厳罰化だったそうです。
2002年、2007年の二度の法改正によって、飲酒に対するコンプライアンス意識が高まり、ホテルでもノンアルコールへの機運が高まったとおっしゃいます。
当時ラウンジバーを担当していた岡村さんは「ミックスジュース」という形で季節の果物を取り込んだノンアルコールカクテルを掘り下げたと語ります。
今では常連さんの中にもアルコールを飲まない方がいるそうですが、ノンアルコールカクテルのコース仕立てで提案したり、ノンアルコールの「いつもの一杯」を生み出したりと、ノンアルコールとも真剣に向き合っているそうです。
ノンアルコールの未来について

最後に岡村さんにノンアルコールの未来についてうかがってみました。
「バーは総合芸術です。ドリンクとだけでなく、雰囲気だけでもなく、人との会話だけというのでもありません。それらすべてを兼ねそろえた場こそがバーであり、他にはなかなかない空間です。お酒を飲まない方は、バーには行ってはいけないと思われがちですが、そんな方たちに一度でも体験してもらうための仕掛けづくりが大事だと思っています。」
飲まないお客さんの単価は低いのではと意地悪な質問をしてみると、
「たしかに、ノンアルコールの方は一杯で終わるという傾向もあるのかもしれませんが、そこを一杯で終わらせず、二杯、三杯飲んでみたいと思って頂けるかが、バーテンダーの技量です。」
常にバー業界を駆け抜けてきた岡村さんのBar Cocktail Book Shinjukuに是非一度行ってみてください。
Bar Cocktail Book Shinjuku:バーカクテルブック新宿(@bar_cocktailbook) • Instagram写真と動画
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